告白 ー 湊かなえ (読後感想)
湊かなえの作品はこれで3回目となる。
湊かなえワールドとも呼ばれる主人公1人だけの目線ではなく、登場人物それぞれの目線から主軸の話の真相が少しずつ明らかになるといった図式、1回目の時はかなり慣れていなかったが、今となってはその絶妙さを感じ楽しむことすらできるようになった。
今回の作品も同じ図式で、第1主人公の森口先生から"事件"が発表された。
学校のプールに転落死した娘は、実は担当のクラスの生徒に殺された。そこから例の告白。
それから、クラスの生徒、犯人、犯人の家族、それぞれが語り手となり事件についていろいろな情報が発見され、結末を迎える。
しかし、"告白"この作品の特徴は、事件に焦点を置くのではなく、事件後に焦点を置いたことだ。
今まで読んだ作品はほとんどが事件の謎について登場人物それぞれの目線から少しずつ明らかにし、真相に辿り着く。ミステリーとしての位置付けだが、今回は特に事件に焦点を置かず謎解きのミステリー要素はなく、事件後森口先生からの告白を受けた生徒たちのその後の経過のほうが本当のストーリーになる。
事件当時のことは主人公の森口先生をはじめ、他の登場人物からの目線でも同じ事実を話している。それはちょっと新鮮だった。
最初に見せた事件の真相実はこうだったんだ!という攻めはなかった。どんでん返しなどもなかった。
むしろ、今回は登場人物の心の中の世界だけで、全編に渡りかなり強力な攻撃をしているとさえ思った。
告白を受けた生徒の心境、それぞれの思いが違う中、事件について違う見解もできる。
登場人物の語りにより、犯人たちの背景、性格形成などがわかり、犯行動機もそれによって違う。
目線が変わると同じ事件でもこんなに違く見えるのか!とまるで別々のストーリーを読んでいる気分にもなる。
新たな発見ではなく、章が変わるごとに一人一人の思いがわかり、前の章ではその登場人物の心の中ではあんな風に思われていたのに、いざ本人の章に変わると実はその本人がこんなこと一切思っていないとか、そういった"裏切り"の手法は素晴らしかった。
登場人物の心の中を繊細に描写でき、その上人間それぞれ違う思いで同じ事においても正反対の捉え方や感じ方があり、誤解が生まれる。場合によってはこんな悲劇にもなりかねない。
そんなことをこの作品から思い知らされたのではないか。