Kitto 自己満の随筆ブログ

日本の小説をこよなく愛する香港出身の者による読書感想やふとした日常の綴りが中心になるブログです。

秘密 ー 東野圭吾

一つのバス事故で妻と娘をなくした主人公の平介だが、奇跡的に娘が蘇生できた。

 

しかし奇妙なことに娘の中はなんと妻の人格が生きているという、そこから始まる夫婦の間に訪れる奇妙でかつ未経験なことの数々というような展開ではあるが、中身は途轍もなく興味深い話であって、かなり読み応えのある申し分のない"神作"である。

 

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娘の姿でありながら実は中身は妻その物、面白い設定ではあるが実際似たような話の本も結構ある。

 

いわゆる王道パターンだが、読んでみればとてもそうとはいえない。

 

 

 

 


最初は人格が違うせいで2人に様々な面白いエピソードが起き、中身が入れ替わったこの手の話の最大の醍醐味とも言えるのだが、その後、時間とともに夫婦の間に出来た微妙な変化、心では夫婦のままだけれど世間では親子の形、これによる主人公の心境の変化も、そして、娘、つまりその妻が学生から人生の再スタートで年を重ねていくと起きる心の変化も、次第に夫婦の間で生じる変化、溝、またはその2人の葛藤の部分もかなりリアルに描写されたので、読んでいて気持ちを平介と重ねて哀愁を感じたことも何度かあったのだ。

 


現実ではありえない話だがどこか現実味があり、とても空想の話だとは思わなかった。

 


また、夫婦の話以外にも加害者のバス運転手についての部分を物語の所々にまじり、物語を芳醇させ、主な線ではないけれどとても重要な役割を担っていたと思う。

 

"秘密"というタイトルでの作者のうまい演出だと思う。

 


あまりにも夫婦の話に没頭してしまうと"秘密"とは何のことかも忘れてしまいそうな時に、ここぞ東野圭吾だ!

 


読んでいる時は まさか! それはないかな?

 

といった気持ちが強かったためそんなに衝撃は感じなかったのだが、一度頭を整理して再度文章をじっくり読むともう心が引き裂かれては引き裂かれる気分になり、涙こそ流さなかったけれど、悲しさを超えて哀愁の世界に一気に吸い込まれて落とされたようだった。

 


妻と娘とのこの当たり前の毎日の生活がどれほど幸せなものなのか非常に考えさせられた作品だと思う。

 


作品の背景は1987年代らしいが、携帯電話のない時代ならではの連絡手段のほか時代が違うと感じたところもありなおさら"名作感"が増したと思う。

 

 

秘密 (文春文庫)

秘密 (文春文庫)