Kitto 自己満の随筆ブログ

日本の小説をこよなく愛する香港出身の者による読書感想やふとした日常の綴りが中心になるブログです。

白ゆき姫殺人事件 ー 湊かなえ

白ゆき姫殺人事件 ー 湊かなえ

 


これはまたもや湊かなえの凄さにやられた作品だった。

作家ならではの発想力、構成力、もちろん文才も兼ね備えたこの作品を、本人はニヤニヤと気持ち良さそうに書いていたのではないかと勝手に想像してみた。

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内容はタイトル通り、いつもの殺人事件、物語自体は普通のミステリーのいう位置付けで、もちろん犯人は誰?的な書き方も巧妙で面白かったのだが、この作品の凄いところそこではない。

 


私は湊かなえの作品を全部熟読しているわけではないのだが、読んだ作品で主人公だけでなく、登場人物別々の視点から物語を話す綴り方というスタイルがかなり多かった。

 


けれど今回はまた違った。

 


登場人物それぞれの語りの部分はあるが、主人公のジャーナリストである視点を中心にたくさんの人を取材して物語が進んでいく。

 


いつもなら物語が進んで、登場人物によって事件の真相に近づくことになったり、その後みんなの展開が結末で合流し最後の盛り上がりを見せるようなパターンが多い。

 


けれどこの作品は取材された人たちの考えをネタに、物語の展開に直接関連せず、読む人の想像に任せて、あるいは作者が思わせたい方向へと導かれ、あくまでも犯人像を作るためのような感じがする。

 


本当の盛り上がりは最後にあって、小説とは言えないほど斬新な手法を用いて、かなり面白かったと思う。

 


事件の真相はあっと思わせることもなく割と淡々と持ち出された。実際ビックリというよりやはりという感じが強かった。

 


読者がジャーナリストの視点になった時点もおそらくこうじゃないのか?と迷ったりもしていたのではないかと思う。

 


もう一つ凄いところはやはり作者の人間に対する描写にある。主人公だけの目線ではないからこそ、人の性格、考えによって自分と違う他人の考え方を知ることが出来て、勉強になる部分もある。

 


今作はさらに取材された人たちの話で、その人々が思ったことをリアルに描写されて、人前と違う裏の一面の恐ろしさを見事に表現した。

 


人付き合いの難しさも再認識できた。

人間の醜さ、それから情報社会(ネット)の怖い一面も再認識できた。

 


自分の考えに過ぎないが、この作品は実はミステリーというよりも今回の斬新な手法と人の噂、情報伝達による怖さとを一番作者が書きたかったのではないかと思う。タイトルが殺人事件というだけに実に秀逸。